(6月9日通信)AIマイグレーションは、コード変換ではなく業務システム考古学である

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古いコードを蘇らせる前に、そこに埋まっている業務の意味を発掘せよ。

生成AIの発展によって、古いシステムを新しい言語や環境へ移行する「AIマイグレーション」という言葉を見かけるようになりました。

COBOLで書かれた古い業務システムを、JavaやPython、あるいは現代的なクラウド環境へ移行する。
一見すると、とても魅力的な話です。

古いコードをAIに読ませれば、新しいコードに変換してくれる。
属人化した古いシステムを、短期間で現代化できる。

そう聞くと、経営者にとっては非常に便利なサービスに見えるかもしれません。

しかし、当社は少し違う見方をしています。

AIマイグレーションは、単なるコード変換ではありません。
むしろ、業務システム考古学に近い作業です。

古い業務システムのコードには、その会社の歴史が埋まっています。

昔の業務ルール。
過去の制度変更への対応。
特定顧客への例外処理。
帳票出力の都合。
担当者がその場しのぎで入れた分岐。
すでに存在しない業務の名残。
誰も理由を説明できない区分コード。

これらは、単なる古いコードではありません。
会社の業務の地層です。

しかも、その地層の中には、今も会社のどこかを支えている処理が残っている可能性があります。

普段は動いていないように見える処理でも、月末、年度末、決算時、返品時、再請求時、税務調査時、特定顧客との取引時だけ必要になることがあります。

そのため、「使われていなさそうだから削除する」という判断は非常に危険です。

一方で、古いコードをそのまま現代のオブジェクト構造やデータベース設計の中に混ぜ込むのも危険です。

設計意図が分からない旧処理を、新しいシステムの中核モデルに入れてしまうと、今後の改修で何が起きるか分かりません。

請求モデルの中に在庫都合の処理が残る。
顧客モデルの中に帳票印刷のためだけの項目が残る。
売上処理の中に昔の特殊契約の分岐が残る。
会計処理の中に営業部門の便宜処理が混ざる。

そうなると、新しいシステムに移行したはずなのに、古いブラックボックスが現代の技術の中で再生産されてしまいます。

これは「近代化」ではありません。
古い呪いを新しい箱に移し替えているだけです。

本当に必要なのは、古いコードをそのまま蘇らせることではありません。

必要なのは、古いコードの中から業務上の意味を発掘することです。

この処理は今も必要なのか。
この例外処理は正式な業務ルールなのか。
それとも過去の応急処置なのか。
このデータは会計・監査・請求・在庫・顧客対応に関係するのか。
この帳票は今も使われているのか。
この区分コードは現在の業務でも意味を持つのか。

こうした問いを一つずつ確認しなければなりません。

つまり、AIマイグレーションで本当に重要なのは、AIがコードを変換できるかどうかではありません。

古いシステムから業務知識を取り出し、現在の会社に必要な形へ再設計できるかどうかです。

生成AIは、発掘作業を助ける道具にはなります。
古いコードを読み、処理の候補を整理し、データ項目を洗い出し、仕様書のたたき台を作ることはできます。

しかし、出土したものの意味を判断するのはAIではありません。

それは、経営者、業務担当者、会計担当者、そして設計者の仕事です。

「これは現在も必要な業務なのか」
「これは会社の正式なルールなのか」
「これは履歴として残すだけでよいのか」
「これは新しい設計に組み込むべきなのか」
「これは隔離しておくべき未解明仕様なのか」

この判断をしないまま、AIでコードを変換してしまうと、問題は解決しません。

むしろ、見た目だけ新しくなったブラックボックスが生まれます。

AIマイグレーションは、コード変換ではありません。
業務システム考古学です。

古い業務システムは、会社の過去の記録です。
しかし、そのすべてを未来に持ち込む必要はありません。

発掘するもの。
保存するもの。
隔離するもの。
現代の業務に組み直すもの。
そして、役目を終えたものとして供養するもの。

それらを分ける作業が必要です。

だからこそ、生成AI時代のシステム移行では、経営者が自社の業務構造を理解していることが重要になります。

外部業者に任せること自体が悪いわけではありません。
しかし、自社の業務ノウハウをどこまで外部に見せるのか。
どの処理を残すのか。
どの業務を今後も続けるのか。
どのデータを会計上の事実として保存するのか。

そこを判断できなければ、会社の頭脳そのものを外部に委ねることになります。

生成AIは便利です。
しかし、生成AIは成功の増幅器であると同時に、失敗の増幅器でもあります。

信号もなく、道路標識もなく、交通ルールも共有されていない道を、自動車で走ればいつか大事故が起きます。

業務ルールが整理されていない。
データの意味が定義されていない。
責任範囲が決まっていない。
承認手順が曖昧なままになっている。

その状態でAIを使ってシステムを移行すれば、混乱も高速化します。

AIを使うな、という話ではありません。

AIが安全に走れる道路を作ること。
つまり、業務構造、データ構造、会計構造、責任範囲、権限、承認手順を整理すること。

それが、生成AI時代のシステム移行において本当に必要な準備です。

当社が内製化準備を重視するのは、そのためです。

システムをすべて自社で作れ、という意味ではありません。
外部専門家を使うべきところは、使うべきです。

しかし、何を任せているのか分からないまま任せるのは危険です。

古いシステムを新しい技術へ移す前に、まず自社の業務を発掘し、整理し、未来に残すべき構造を見極める。

AIマイグレーションとは、単なる技術作業ではありません。
会社の過去を読み解き、未来の業務構造を設計し直す経営判断なのです。

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