ブログ

  • (6月27日通信)操作画面を増やしたくなる、システム開発会社の本音

    画面数で見積もられてしまう前に、企業が知っておきたいシステム開発の構造

    システム開発の見積書を見ると、よく登場するものがあります。

    操作画面の数。
    入力フォームの数。
    一覧画面の数。
    帳票の数。
    機能の数。

    もちろん、画面や機能を作るには工数がかかります。
    ですから、それらが見積もりに反映されること自体が間違いというわけではありません。

    しかし、企業側が注意すべきなのは、画面数や機能数が、システム開発の価値そのもののように扱われてしまうことです。

    本当に価値があるのは、画面を何枚作ったかではありません。

    その会社の業務をどこまで理解したか。
    現場の判断をどこまで整理したか。
    経営者の考えをどこまで業務構造に落とし込んだか。
    会計、権限、承認、顧客管理、外部専門家との関係をどこまで見通したか。

    本来、システム開発で最も重要なのは、こちらの方です。

    画面は分かりやすい。だから請求しやすい

    なぜ、システム開発会社は画面数や機能数を見積もりの根拠にしやすいのでしょうか。

    理由は単純です。

    顧客に説明しやすいからです。

    「入力画面が10枚あります」
    「一覧画面が5枚あります」
    「帳票が3種類あります」
    「管理画面を追加します」

    このように説明されると、発注する企業側も分かった気になります。

    目に見えるものだからです。

    画面が増えれば、作業が増えたように見える。
    機能が増えれば、開発量が増えたように見える。
    帳票が増えれば、業務に合わせて作り込んでいるように見える。

    しかし、ここに落とし穴があります。

    画面は見えます。
    だから分かりやすい。

    一方で、業務理解は見えません。
    権限設計も見えません。
    データ構造も見えません。
    将来のセキュリティ強化に備えた設計も、見積書だけでは分かりにくい。

    その結果、本当に重要な設計よりも、見えやすい画面数が請求根拠として前面に出てきやすくなります。

    本当にコストがかかるのは、画面ではなく業務理解

    企業向けのシステム開発で本当に難しいのは、操作画面を作ることではありません。

    本当に難しいのは、開発する企業の業務を理解することです。

    どの業務が会社の利益を生んでいるのか。
    どの手順が現場の工夫なのか。
    どこに例外処理があるのか。
    どの情報を外部に見せてはいけないのか。
    誰が判断し、誰が承認し、誰が責任を持つのか。
    どのデータが会計・請求・在庫・顧客管理につながるのか。

    こうした情報は、表面的なヒアリングだけでは出てきません。

    企業独自のノウハウには、他社に知られたくない情報もあります。
    経営者が簡単には話したくない判断基準もあります。
    現場担当者が長年の経験で覚えている暗黙知もあります。

    それらを、信用を得ながら聞き出し、守秘しながら整理し、後から読める概要書面に落とし込む。

    ここに、本来のコストがかかります。

    画面を作る前に、会社の業務を言語化する。
    この工程こそ、システム開発の上流で最も価値がある部分です。

    画面から始めると、システムは膨らみやすい

    問題は、画面からシステムを考えてしまうことです。

    最初に画面イメージを作る。
    顧客がそれを見て「分かりやすい」と感じる。
    そこに入力項目を足す。
    一覧画面を足す。
    検索画面を足す。
    管理画面を足す。
    帳票を足す。

    こうして、画面はどんどん増えていきます。

    しかし、画面が増えたからといって、会社の業務構造が整理されるわけではありません。

    むしろ、業務理解が浅いまま画面を増やすと、後から困ることになります。

    同じような情報を複数の画面で入力する。
    どのデータが正しいのか分からなくなる。
    権限管理が後付けになる。
    部署が増えたときに対応できない。
    外部専門家と連携しにくい。
    会計や請求とのつながりが曖昧になる。
    将来のセキュリティ強化で作り直しが必要になる。

    見た目には便利そうな画面が増えていても、裏側の構造が整理されていなければ、システムは複雑になっていきます。

    見積もりコスト回収型の画面増殖

    少し踏み込んだ話をすると、システム開発では、提案や見積もりを作る段階にもコストがかかります。

    顧客の話を聞く。
    業務を整理する。
    提案書を作る。
    概算を出す。
    画面イメージを作る。
    見積書を作る。

    これらは本来、価値ある作業です。

    しかし、顧客側が「提案や業務理解そのもの」に価値を感じにくい場合、そのコストをどこかで回収する必要が出てきます。

    そのとき、画面数や機能数は説明しやすい請求根拠になります。

    「この画面も必要です」
    「この管理機能も必要です」
    「この帳票も作りましょう」

    このようにして、見積もりや提案にかかったコストを、画面や機能の数に乗せて説明する構造が生まれやすくなります。

    もちろん、すべてのシステム開発会社が意図的に画面を増やしているわけではありません。

    しかし、請求根拠が画面数や機能数に偏っていると、どうしても「作るものを増やすほど売上が増える」構造になります。

    これは、発注する企業側にとって注意すべきポイントです。

    画面を増やすことと、アプリケーションを分けることは違う

    ここで誤解してはいけないことがあります。

    画面を増やすことと、アプリケーションを分けることは違います。

    画面を増やすとは、操作する入口や見た目を増やすことです。
    一方で、アプリケーションを分けるとは、業務責任・権限・データ管理・会計連携・外部専門家との役割分担を整理することです。

    たとえば、顧客対応、会計、講座運営、資料管理、外部専門家連携、権限管理を、必要に応じて分けることがあります。

    これは画面数を増やしたいからではありません。

    誰が何を見てよいのか。
    誰がどの情報を変更してよいのか。
    どのデータが正本なのか。
    どの業務が会計とつながるのか。
    外部専門家にはどこまで共有するのか。
    将来、セキュリティ強化や事業分割が必要になったときに対応できるのか。

    こうした境界を明確にするためです。

    つまり、正当なアプリケーション分割は、画面を増やすためではなく、会社の業務と情報を守るために行います。

    画面は少なく、構造は明確に

    企業側が本当に求めるべきなのは、画面が多いシステムではありません。

    使う人にとって画面は少なく、分かりやすい方が良い。
    教育コストも下がります。
    操作ミスも減ります。
    保守対象も減ります。

    一方で、裏側の構造は明確である必要があります。

    業務ごとの責任範囲。
    権限管理。
    承認フロー。
    データの正本。
    会計との接続。
    外部専門家との共有範囲。
    将来のセキュリティ強化への備え。

    ここを曖昧にしたまま画面だけ増やしても、会社にとって本当に使えるシステムにはなりません。

    大切なのは、画面数ではありません。

    会社の業務構造をどこまで理解し、どこまで整理し、どこまで将来に耐える形にできるかです。

    高度な外注開発は、結局「内製化教育」に近づく

    将来的なセキュリティ強化や権限分離まで考えたシステムを提案しようとすると、開発会社は企業側にシステム構造を説明する必要があります。

    なぜ業務ごとに分けるのか。
    なぜ権限管理が必要なのか。
    なぜ顧客情報、会計情報、外部専門家との共有情報を同じ場所に置いてはいけないのか。
    なぜ今は小さな会社でも、将来の部署分割や経営統合を考えた設計が必要なのか。

    ここまで説明するなら、それは単なるシステム開発の提案ではありません。

    企業側が、自社の業務構造とシステム構造を理解するための教育でもあります。

    であれば、最初から「外部に丸投げするシステム開発」ではなく、企業側が構造を理解しながら進める内製化支援として始めた方が自然です。

    内製化とは、すべてを自社だけで作ることではありません。

    外部専門家を活用しながらも、自社の業務構造、権限、データ、会計、セキュリティの考え方を、企業側に残していくことです。

    見積書で見るべきもの

    システム開発の見積書を見るとき、企業側は画面数や機能数だけを見てはいけません。

    見るべきなのは、次のような点です。

    その会社の業務をどこまで理解しているか。
    業務の概要書面が残るか。
    権限や承認の考え方が整理されているか。
    データの正本が明確になっているか。
    会計や請求とのつながりが考えられているか。
    将来のセキュリティ強化に対応できるか。
    外部専門家を活用しても、会社側に判断軸が残るか。

    画面は、システムの入口にすぎません。

    本当に見るべきなのは、その奥にある業務構造です。

    まとめ

    操作画面を増やせば、見積もりは説明しやすくなります。

    しかし、画面が多いことと、良いシステムであることは別です。

    本当に価値があるのは、画面を増やすことではなく、会社の業務を理解し、企業独自のノウハウを尊重しながら、業務構造・権限・データ・会計・セキュリティを整理することです。

    画面を増やすほど、会社のシステムは分かりやすくなるとは限りません。

    むしろ、業務理解が浅いまま画面を増やすと、後から直しにくいシステムになってしまいます。

    雲楼システムパートナーズでは、画面数や機能数を増やすことを価値とは考えていません。

    当社が重視しているのは、企業側が自社の業務構造を理解し、必要に応じて外部専門家を活用しながら、将来に耐えるシステム設計を考えられる状態を作ることです。

    画面から考えるのではなく、会社の業務構造から考える。

    それが、中小企業のDXやシステム内製化で失敗しないための第一歩です。

  • (6月25日通信)中世ヨーロッパの商人は、なぜ複式簿記を必要としたのか

    ――会計ソフト時代に忘れられた「信用を記録する」という視点
    中世ヨーロッパ発、複式簿記という信用の技術

    会計を「税金のため」だけに考えてよいのか

    複式簿記は、中世ヨーロッパ、とりわけイタリアの商業都市で発展してきた記録技術です。

    現代では、会計というと「税務申告のための処理」「会計ソフトへの入力」「税理士さんに渡す資料」といった印象が強いかもしれません。

    しかし、複式簿記の歴史をたどると、会計は税金のためだけに生まれたものではないことが分かります。

    中世の商人たちは、遠く離れた地域と取引し、代理人を使い、複数の商品を扱い、債権と債務を管理しながら商売をしていました。

    誰にいくら貸しているのか。
    誰にいくら支払う必要があるのか。
    どの商品が動いているのか。
    どこに財産があるのか。
    どの取引が利益につながったのか。
    代理人や共同事業者に任せた仕事は、正しく行われているのか。

    こうしたことを記憶や口約束だけで管理することはできません。

    商売が大きくなればなるほど、取引を記録し、あとから確認し、必要に応じて他者へ説明できる仕組みが必要になります。

    そのために発展してきたのが、複式簿記という記録技術でした。

    つまり複式簿記は、単なる計算方法ではありません。
    商人が自分の商売を把握し、取引相手との約束を記録し、自分の信用を説明するための技術だったのです。

    会計ソフト市場は、すでに成熟している

    現在の会計ソフト市場には、多くの優れたサービスがあります。

    銀行口座との連携。
    請求書の発行。
    領収書の保存。
    税理士との共有。
    インボイス制度への対応。
    電子帳簿保存法への対応。
    決算や申告作業の効率化。

    こうした機能は非常に便利です。
    会計ソフトを使うこと自体が悪いわけではありません。

    むしろ、定型的な処理を効率化する道具として、会計ソフトは大きな価値を持っています。

    ただし、会計ソフト市場が成熟しているからこそ、私たちは改めて問い直す必要があります。

    会計とは、入力を楽にするためだけのものなのでしょうか。
    会計とは、税務処理を済ませるためだけのものなのでしょうか。
    会計とは、標準的な画面に会社の出来事を入力するだけで足りるものなのでしょうか。

    複式簿記の歴史を振り返ると、会計の本来の役割はもっと広いものだったはずです。

    会計とは、会社の出来事を記録し、会社の状態を説明し、信用を積み上げるための仕組みです。

    複式簿記は、信用を記録する技術だった

    中世ヨーロッパの商人にとって、信用は商売の土台でした。

    遠隔地との取引では、相手を直接見て判断できるとは限りません。
    すべての取引をその場で現金決済できるわけでもありません。
    代理人や共同事業者に仕事を任せることもあります。
    商品が動き、お金が動き、債権と債務が発生します。

    その中で、何が起きたのかを記録できなければ、商売は広がりません。

    記録があるから、あとで確認できます。
    記録があるから、相手に説明できます。
    記録があるから、間違いや不正に気づけます。
    記録があるから、自分の財産と負債を把握できます。
    記録があるから、次の取引や投資を判断できます。

    この意味で、複式簿記は「信用を記録する技術」だったと言えます。

    そして現代の会社においても、この本質は変わっていません。

    会計は、経営判断のために使われます。
    投資判断のために使われます。
    融資判断のために使われます。
    税務処理のために使われます。
    与信判断のために使われます。
    内部統制や不正防止のために使われます。
    予算管理や原価計算のために使われます。
    資金繰り管理のために使われます。
    事業承継やM&A、企業価値評価のために使われます。
    補助金、助成金、許認可、入札のためにも使われます。
    そして、経営者が説明責任を果たすためにも使われます。

    つまり会計とは、会社の信用を支える記録なのです。

ブログ index